Welcome to Mindful Planet

2009年10月7日水曜日

オバマ大統領の白髪が増えるわけ


 オバマ大統領の身を案じる声が増えている。
 心配性の私はオバマが大統領候補になった時点から、オバマは生き残れるのかしら、と心配で、ことあるごとに周囲の友人や知人にも問いかけると、「いまのアメリカはそれほど愚かではない」と笑われてきたのだが、最近では、この問いを笑って一蹴できる状況ではなくなってきている。
 いまのアメリカは、ケネディー大統領の暗殺に至った60年代初頭の雰囲気に酷似しているという指摘もある。
 ケネディー大統領の人気が高まるほど、その一方では、カソリック教徒が大統領になったことを良しとしないプロテスタントの人種差別主義者や保守派の敵意は深まり、大統領を個人的に冒涜する発言も増えていたそうなのだ。
 現代アメリカを代表する知識人の一人とされているトーマス・フリードマンは、数日前のニューヨーク・タイムズのコラムで、いまのアメリカの状況は、ラビン暗殺前夜のイスラエルの状況にそっくりだと、杞憂している。当時のイスラエルでは平和交渉を進めようとするラビンへの反発から、ラビンをヒトラーにたとえたり、首相としての権威を失墜させようとする右派のプロパガンダが功を奏し、暗殺を正当化する空気が盛り上がっていたという。
 アメリカでも健康保険改革を阻もうとする保守派のプロパガンダの一環として始まったオバマ叩きは激化、悪化し、中東の街頭デモさながらに、オバマ大統領の顔にヒゲをつけヒトラーやムッソリーニにみせかけた立てカンを掲げた群衆がホワイトハウス前に押しかけたりしている。
 オバマ大統領が全米の学校向けに、教育の大切さを説く演説を計画しただけで、オバマによる子供達の洗脳作戦だ、まるで北朝鮮のようだ、と保守派が騒ぎ出し、子供を登校拒否させようとした親たちも出た。
 議会でも、大統領演説の最中に、南部出身の共和党保守派の議員が「嘘つき!」と叫び大問題となったが、同議員は数日中に巨額の献金をものにした。
 同じく南部出身のジミー・カーター元大統領は、同議員の発言は人種差別に基づいたものだと断言した。
 特にフリードマンを反応させたのは、ソーシャル・ネットワーキングのサイト、フェイスブックに、オバマは暗殺されるべきか否かと問う「世論調査」が掲載され、700人近くが回答を寄せたという一件。
 フェイスブックは事態に気づくと即座にそのページをはずし、シークレットサービスが捜査を開始したが、そういうことがまかり通る風潮自体が、すでに異常で危険だとフリードマンは指摘する。
 ブッシュ政権時代だったら、そんな世論調査を掲載した本人はもとより、回答を寄せた人も根こそぎ、国内テロリストとして検挙、処罰されていたところである。
 オバマ叩きの根源にあるのは、やはり人種差別だと思う。
 進歩派の人々やメディアはオバマの大統領就任当時には「新たな人種関係の時代の幕あけだ」と喜んでいたが、それはとんでもない誤りだったのだ。
 たとえ国民の過半数が人種差別を認めなくなっても、人種差別者は確実に存在する。彼らはオバマ政権の政策がうまくいかなければ、それみたことかと批判を募らせるし、オバマ大統領が有能で、政策が成功すればしたで彼に対する怒りや憎しみを募らせる。
 どう転んでも彼らの心情を変えることはできないのだ。
 いまではアメリカの世論全体が、オバマの存在を疎む保守派や人種差別主義者の叫びに乗っ取られている。あれだけ熱狂的にオバマを支持した進歩派、一般大衆は、そうした勢力に対決しようとせず、不思議なほど大人しく沈黙を保っている。
 というか、オバマが掲げた「チェンジ」「改革」の実現を期待していた進歩派のなかには、健康保険改革の挫折、アフガニスタン戦争の長期化などから、公約とはほど遠いオバマ大統領への不満、失望も広がり、支持基盤自体が揺らいできているのだ。
 私もそのひとりで、あくまで対決を嫌い協調をもとめるオバマ大統領の弱腰姿勢には呆れ、失望している。
 せっかく民主党が過半数を掌握した、またとないチャンスで、ごり押しすれば通る議案も協調と交渉でものごとをまとめようとするから膠着状態になる。
 白人と黒人の混血で、どちらも敵にしないように常に気を配りふたつの世界で同時に生きてきたオバマ大統領にとっては、自分の立場をはっきりさせる、主張を貫くということ自体が、この人生で与えられた大きな挑戦なのではないか。
 そう考えること自体が人種差別なのかもしれないが・・